お知らせ
2025年9月14日

NO28「江戸を食す」 握りずしとつけじょう油

「江戸前の握りずしは、しょう油をつけてたべるものか、それとも、つけずに食べるものか」

いまは、握りずしはしょう油をつけて食べるのとされているが、これは食べ方としても、

おかしな話である

なぜならいうまでもなく江戸前鮨の特徴はいろいろ違ったタネ(ネタとはすし屋は言わない)の

持ち味を生かして、それがシャリと調和(なじむ)するところにあるのだから、

それを、つけじょう油につけることによって日本食の基本である十色の味を一色に近づけて食べる

というのは感心できない。

すし屋にしても、それではなんだか馬鹿にされているようなものである。

 まして、タネだけズルリと剥がして、それにしょう油をベットリつけたタネをまた、

もとの飯の上にかぶせて食べられたのでは、見ているこちらのほうもガッカリさせられてしまう。

 もっとも、そのくらいにして食べなければ旨くない握りも、昨今ではままあるのだから話は

倒である。

 だが、昔(明治末期まで)は、つけじょう油なしで食べられる握りが普通だった。

結局、つけじょう油とは前処理や煮きり(生醤油を自家製の味に)を使わない純生物をタネ

とした握りずしの出現によって必要となったに違いない。

そして、純生物のタネを使うということは、江戸前伝統の技術からいえば一種の逃げ仕事

であった。

著者 吉野曻雄「鮓・鮨・すし すしの事典」より引用させていただきました。

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